Column コラム
『アプセット鍛造』とは?
鍛造の分類
改めて鍛造の分類を整理します。
「鍛造」は、鋼(はがね)などの金属を鍛えて形を造りだすこと。大きな力でたたくことで金属の組織を緻密にし、同時に目的の形状に近づけていきます。同じように素材に熱を加えて成形する「鋳造」と異なる点は、「鍛造」の工程において、素材である金属がより強度を増すということです。
鍛造では、金属に熱を加える場合、そのときの温度によって熱間鍛造・冷間鍛造・温間鍛造などに分類されます。1200度ほどの高温で加熱する場合が熱間鍛造、常温が冷間鍛造、その中間の600~850度程度の加熱が温間鍛造です。
アプセット鍛造は、自由鍛造による成形法の1つに分類されます。自由鍛造には、鍛伸・円筒伸ばし・展伸・絞り・据込み・しごき・曲げ・せぎり・ねじり・ずらし・穴あけ・切取り・穴抜き・剪断・穴拡げ・割りなど、その加工法によってさまざまな種類があります。その中の据込みという成形法が「アプセット鍛造」です。
アプセット鍛造のメリット・デメリット
「据込み」とは、素材の丸棒を軸方向に加圧して高さを減少させ、同時に断面を増大させるという成形方法。一般に丸棒の先端または中間に熱を加え、部分成形する工法を「アプセット鍛造」といいます。それぞれ先端アプセット・中間アプセットなどとなります。
アプセット鍛造には、削り出しに比べて材料費が節減できるというメリットがあります。加工時間も少なくてすみ、材料や電気代が節約できるためコストダウンが図れます。
また軸部が丸棒のままで旋盤加工がしやすく、シンプルな鍛造方式のため金型費も安くできます。なんといっても最大のメリットは、鍛流線(メタルフロー)が連続しているため、金属の強度が強い点で、製品によっては重要なポイントとなります。
アプセット鍛造のデメリットとしては、割型(グリップダイ)を使用する場合に、割型の合わせ面に「割り線」というバリが出る点、軸部の仕上りが徐々に細くなる場合は、軸部は丸棒ストレートのままであるため、取り代が多くなる点があげられます。
ハイブリッド鍛造とは?
取り代が多くなる点を解決する方法として、「ハイブリッド鍛造」があります。軸部の仕上り寸法が徐々に細くなるようなシャフトなどの場合、 軸部が丸棒ストレートのままのアプセット鍛造では、軸の先端にいくほど取り代が多くなってしまいますが、ハイブリッド鍛造の場合は、外周から直径方向に加圧することで、軸径を徐々に細くしていくことができます。
ハイブリッド鍛造は、いわばアプセット鍛造と軸伸ばし工法を合体した工法。これにより、材料歩留まりの向上と機械加工代の削減が図れ、小ロット品への対応も可能となりました。
アプセット鍛造からうまれた製品
アプセット鍛造のメリットは、材料費のコストダウンが図れる点ですが、軸長の短いものはメリットが出にくく不向きです。また、ツバの厚みが厚いとかなりの長さの材料を据え込む必要が生じ、やはり一定の厚みをこえた場合は不向きとなります。この判断基準が難しいのですが、メリットシミュレーションなどで試してみることができます。
アプセット鍛造で製造される製品には、水道用や船舶用のバルブの弁棒、ブルドーザの駆動軸、ミッションの歯車軸、旋盤の主軸、大型構造物のアンカーボルト、コンプレッサーのピストン棒や車軸などがあります。