Column コラム

『精密鍛造』とは?

鍛造製法

精度の高い冷間鍛造

きびしい寸法精度と表面仕上がりが要求される「精密鍛造」は、冷間鍛造の優れた技術なくして成り立ちません。

鍛造の方法には、熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造がありますが、熱を加えず室温と同じ温度で金属に鍛造加工をほどこす「冷間鍛造」が可能になったのは、1935年にドイツでリン酸亜鉛皮膜処理の技術が開発されてからです。

冷間鍛造が日本に輸入されたのは、1960年代。自動車生産が盛んになってきたことで、精密鍛造による自動車部品の需要が急速に伸び、ドイツ・アメリカから冷間鍛造の機械と技術が導入されるようになりました。ギア、クラッチハブ、シャフト、ロータなど自動車産業の発展になくてはならない自動車部品は、精密鍛造の技術から生まれた製品です。

「寸法公差」からみた冷間鍛造品の精度は、他の鍛造加工に比べ群を抜いて優れており、切削機械による仕上げ加工をほとんど必要としないほど精度が高いといわれています。ただし常温で金属を加工するため、それには向かない金属もあり、素材を選ぶという難点もあります。

 

コストの削減

冷間方法による精密鍛造は、非鉄金属・ステンレス鋼・合金鋼・炭素鋼などの金属材料を、金型を用いて圧縮成型します。加圧のためにはかなり大きな荷重を必要としますが、大量生産に向いた鍛造方法といえます。

金型を用いて圧縮成型する場合、「バリ」とよばれる余剰材が横方向に出る「型鍛造」が一般的ですが、「バリ」を出さない「密閉鍛造」「閉塞鍛造」では、最終的には金属素材の全面が拘束されるために、複雑な形状の精密成形が可能となり、自動車部品の精密鍛造の主流となっています。

仕上げ加工を必要とせず、「バリ」を出さないことで無駄がなくなり、大量生産ができる点で、精密鍛造には大幅なコスト削減が期待できるようになりました。

 

複雑な工程

素材に熱を加えることで比較的加工しやすい熱間鍛造に比べ、冷間鍛造は、目的の形状を得るためには高度な技術と経験が必要となります。素材の変形抵抗が強いと、金型が破損したり、材料に“割れ”や“焼付き”が発生したりすることもあります。 

これを防ぐため、冷間鍛造ではいくつかの中間工程が必要となります。たとえば、冷間加工の途中で硬化した素材を軟化し、次の冷間加工を容易にするために、再結晶温度以上で1~数回に分けておこなわれる「焼なまし」です。 

また冷間鍛造では、「潤滑」が重要な役割を果たしています。リン酸塩皮膜に金属石けん処理した化成潤滑方法が一般的ですが、より難しい加工になると、固体潤滑剤や黒鉛を組み合わせる方法も使用されます。

 

金型の製作技術

精密鍛造には、製品ごとに必要となる金型の強度や精度の高さが深く関係しています。原型となる金型の精度が高いほど製品の精度も増します。また高い内圧に耐える強度も必要となります。

精度に優れ、耐久性の強い金型を作る技術力が精密鍛造を支えているともいわれており、メーカーではとくに金型製作技術者の育成に力を入れています。

このような潤滑処理や中間焼なましなどの複雑な工程と熟練を要する冷間鍛造の高い技術力が、日本の大型製品や高強度材料の精密鍛造を支えているのです。

 

広がる用途

近年では、高級ゴルフクラブのヘッドにチタンの冷間鍛造品が使われると聞きます。 またプロレーサーが乗る自転車のアルミ製スポークや、釣り具のリールにジュラルミンのマスターギアが使われることもあるとか。 これらは全て、とても高価で稀少な芸術品ともいえる冷間鍛造品です。

今後は、スポーツやレジャーなど多方面にわたって、ますます冷間鍛造品の用途が広がりそうですね。